藤木部長にロックオン〜あの子のハートビームから逃げられない〜
フォーラムに着くと、台車にダンボールを載せて会場に行く。
「広いですね。設営も大変そう」
「ああ。仕切りを取って3つのホールを繋げているからな。先方とは、ひとまずロビーで落ち合うことになっている」
「わかりました」
大勢のスタッフジャンパーを着た人が行き交う中をロビーに向かうと、スーツを着たスタイルの良い男性がこちらに気づいて手を挙げる。
「片瀬さん!」
「葛原さん、お疲れ様です」
おっ、彼が葛原くんか、と俺はしげしげと見つめた。
「部長、こちらが営業課の葛原さんです」
「初めまして、葛原です。先日はお電話で失礼しました。迅速にご対応いただき、本当にありがとうございました」
営業マンらしい笑顔で丁寧に頭を下げる葛原くんに、俺も「こちらこそ」
と笑みを浮かべる。
だがふと、彼がネックストラップで首からかけているIDカードに目をやり、【葛原 晴登 Haruto Kuzuhara】と書かれているのを見てハッと息を呑んだ。
(はると!? もしや、片瀬くるみの片想いの相手か?)
甘いマスクとさわやかな笑顔で、いかにもモテそうな葛原晴登。
まさか、という思いと、そうに違いないという思いが交錯する。
(君か!? 君だったんだな、葛原晴登。彼女を散々悩ませている自覚が、君にはあるのか?)
悶々としていると、葛原くんが近くにいた文具フェスタの主催者を連れて戻って来た。
「片瀬さん、お久しぶりです。聞いたよ、足をケガしたんだって? それなのに追加でスタンプラリーの台紙や景品の準備を頼んで悪かったね」
「ご無沙汰しております、緒方さん。とんでもない。こちらこそ、お手伝いさせていただき、ありがとうございました。文具フェスタの開催、誠におめでとうございます。私もわくわくと心待ちにしておりました」
年配の男性と和やかに挨拶したあと、片瀬くるみは俺を振り返って紹介する。
俺は名刺を差し出して緒方さんに挨拶すると、早速台紙とステンレスボトルを確認してもらった。
「おおー、これはいい! 一層文具フェスタが盛り上がるよ。ありがとう、片瀬さん」
「いいえ。ではこのまま受付に置いておきますね。私もあとで会場内を下見させていただいてもよろしいでしょうか? どんな商品があるのか、気になってしまって」
「もちろん。自分で紙を選んで作るノートや、カリグラフィーのワークショップもあるよ」
「わぁ、すてきですね! 開催期間中にも、来場者として来ますね」
その時、「緒方さん、いいですか?」と別のスタッフが呼びに来た。
「では私はこれで。片瀬さん、葛原さんと藤木さんも、本当にありがとうございました」
「こちらこそ。ご盛会をお祈りしております」
「ありがとう。それじゃあ」
3人で緒方さんを見送ると、葛原くんが振り返る。
「片瀬さん、藤木部長。そこのテーブルで、納品書の確認をさせていただけますか?」
「はい、わかりました」
俺と片瀬くるみが席に着くと、近くの自動販売機で缶コーヒーを買ってから葛原くんも座った。
「片瀬さん、よかったらコーヒーどうぞ。確かブラック派だったよね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
その瞬間、俺はカチンと頭にきた。
「藤木部長も、今お持ちします。ブラックでいいですか?」
そう言って再び立ち上がる葛原くんを、「いや、自分で買うよ」と追いかける。
「葛原くん、ちょっといいかな」
「はい、何でしょう?」
自動販売機の前で俺はグッと葛原くんに詰め寄ると、声を潜めて睨みを効かせた。
「いいか、全国のはるとを代表し、はるとの名誉の為に君に物申す。彼女がコーヒーはブラック派だと、なぜ信じて疑わない? 本当に相手は心底そう思っているのか、今一度己の胸に手を当てて振り返ってみたまえ」
「は、はあ……」
「俺からは以上だ。どうか彼女のことを、よろしくお願いする」
姿勢を正して頭を下げてから、俺は自分のブラックコーヒーを買った。
「葛原くんは? ブラック派?」
「はい、そうですが……」
「誓ってそうか?」
「誓……います、はい」
俺は結婚式の神父さんのような気分で頷き、葛原くんにもブラックコーヒーを買った。
「広いですね。設営も大変そう」
「ああ。仕切りを取って3つのホールを繋げているからな。先方とは、ひとまずロビーで落ち合うことになっている」
「わかりました」
大勢のスタッフジャンパーを着た人が行き交う中をロビーに向かうと、スーツを着たスタイルの良い男性がこちらに気づいて手を挙げる。
「片瀬さん!」
「葛原さん、お疲れ様です」
おっ、彼が葛原くんか、と俺はしげしげと見つめた。
「部長、こちらが営業課の葛原さんです」
「初めまして、葛原です。先日はお電話で失礼しました。迅速にご対応いただき、本当にありがとうございました」
営業マンらしい笑顔で丁寧に頭を下げる葛原くんに、俺も「こちらこそ」
と笑みを浮かべる。
だがふと、彼がネックストラップで首からかけているIDカードに目をやり、【葛原 晴登 Haruto Kuzuhara】と書かれているのを見てハッと息を呑んだ。
(はると!? もしや、片瀬くるみの片想いの相手か?)
甘いマスクとさわやかな笑顔で、いかにもモテそうな葛原晴登。
まさか、という思いと、そうに違いないという思いが交錯する。
(君か!? 君だったんだな、葛原晴登。彼女を散々悩ませている自覚が、君にはあるのか?)
悶々としていると、葛原くんが近くにいた文具フェスタの主催者を連れて戻って来た。
「片瀬さん、お久しぶりです。聞いたよ、足をケガしたんだって? それなのに追加でスタンプラリーの台紙や景品の準備を頼んで悪かったね」
「ご無沙汰しております、緒方さん。とんでもない。こちらこそ、お手伝いさせていただき、ありがとうございました。文具フェスタの開催、誠におめでとうございます。私もわくわくと心待ちにしておりました」
年配の男性と和やかに挨拶したあと、片瀬くるみは俺を振り返って紹介する。
俺は名刺を差し出して緒方さんに挨拶すると、早速台紙とステンレスボトルを確認してもらった。
「おおー、これはいい! 一層文具フェスタが盛り上がるよ。ありがとう、片瀬さん」
「いいえ。ではこのまま受付に置いておきますね。私もあとで会場内を下見させていただいてもよろしいでしょうか? どんな商品があるのか、気になってしまって」
「もちろん。自分で紙を選んで作るノートや、カリグラフィーのワークショップもあるよ」
「わぁ、すてきですね! 開催期間中にも、来場者として来ますね」
その時、「緒方さん、いいですか?」と別のスタッフが呼びに来た。
「では私はこれで。片瀬さん、葛原さんと藤木さんも、本当にありがとうございました」
「こちらこそ。ご盛会をお祈りしております」
「ありがとう。それじゃあ」
3人で緒方さんを見送ると、葛原くんが振り返る。
「片瀬さん、藤木部長。そこのテーブルで、納品書の確認をさせていただけますか?」
「はい、わかりました」
俺と片瀬くるみが席に着くと、近くの自動販売機で缶コーヒーを買ってから葛原くんも座った。
「片瀬さん、よかったらコーヒーどうぞ。確かブラック派だったよね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
その瞬間、俺はカチンと頭にきた。
「藤木部長も、今お持ちします。ブラックでいいですか?」
そう言って再び立ち上がる葛原くんを、「いや、自分で買うよ」と追いかける。
「葛原くん、ちょっといいかな」
「はい、何でしょう?」
自動販売機の前で俺はグッと葛原くんに詰め寄ると、声を潜めて睨みを効かせた。
「いいか、全国のはるとを代表し、はるとの名誉の為に君に物申す。彼女がコーヒーはブラック派だと、なぜ信じて疑わない? 本当に相手は心底そう思っているのか、今一度己の胸に手を当てて振り返ってみたまえ」
「は、はあ……」
「俺からは以上だ。どうか彼女のことを、よろしくお願いする」
姿勢を正して頭を下げてから、俺は自分のブラックコーヒーを買った。
「葛原くんは? ブラック派?」
「はい、そうですが……」
「誓ってそうか?」
「誓……います、はい」
俺は結婚式の神父さんのような気分で頷き、葛原くんにもブラックコーヒーを買った。