没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
「……はい」

今度は、素直に頷く。

次の瞬間、馬が駆け出した。

風が頬を打ち、視界が一気に開ける。

その隣を、殿下が並んで走る。

(楽しい……)

思わず笑みがこぼれる。

こんなふうに、同じ速度で、同じ景色を見ている。

ただそれだけのことが――こんなにも、嬉しいなんて。

ちらりと横を見ると、殿下もこちらを見ていた。

一瞬、視線が合う。

すぐに前を向くけれど、口元がわずかに緩んでいた。

その横顔に、胸が静かに高鳴る。

(この方の側にいられるなら……)

危険でも、構わない。

そう思ってしまう自分に、気づかないふりをしながら――

私は、さらに速度を上げた。

「隣国に入ったら、町に泊まって酒屋を当たってみる」
< 29 / 100 >

この作品をシェア

pagetop