没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
すると、殿下はわずかに視線をこちらへ向けた。

「なら、俺の側を離れるな」

その言葉は、命令であり――同時に、どこか優しかった。

「はい」

今度は迷いなく頷く。そのまま、二人で歩き続ける。

人混みの中でも、彼の存在ははっきりと分かる。

隣にいるだけで、不思議と落ち着く。

(この方と一緒なら……)

どんな場所でも、大丈夫な気がする。

そんなことを思ってしまう自分に、少しだけ驚きながら――

私は、さらに一歩、彼の側へと寄った。

「結構、にぎわっているな」

殿下は、走り回る子どもたちに視線を向けた。

笑い声が弾ける。

それを見つめるその横顔は、どこか穏やかだった。

「笑顔がある。案外、この国は良い国なのかもしれないな」

その言葉に、私も小さく頷く。

(……本当に)
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