没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
思わず顔を背ける。

嬉しくて、でも信じられなくて。

胸の奥が熱くなる。

「リゼリア」

名前を呼ばれた瞬間、再び引き寄せられる。

ぎゅっと、強く抱きしめられる。

逃げ場はないのに――嫌ではなかった。

むしろ、その腕の中が一番落ち着く。

「あの日以来、おまえのことばかり考える」

耳元で落とされた言葉に、心臓が大きく跳ねる。

「殿下……」

自然と、その名がこぼれる。

思い出すのは、あの夜。

触れられた温もりも、声も、すべてが鮮明に蘇る。

(……私も)

体の奥が、じんわりと熱を帯びる。

「ずっと一緒だ」

低く囁かれる。

その声は、優しくて――どこか逃がさない響きを持っていた。
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