没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
そして――翌週。

私は実家に戻り、相手の公爵家子息と顔を合わせていた。

応接間は、どこか懐かしい空気に包まれている。

けれど、今の私はもう、ここに居場所はない気がしていた。

「リゼリア。結婚の話、受けてくれてありがとう」

穏やかな声。

顔を上げると、そこには優しそうな青年がいた。

落ち着いた物腰。柔らかな表情。

誰から見ても、非の打ちどころのない人物だと分かる。

(……この方が、私の)

未来の、夫になる人。

「いえ……こちらこそ」

なんとか言葉を返す。

胸の奥が、ざわついて落ち着かない。

「あの、私……実は――」

伝えなければならない。

そう思って口を開いた、その時だった。

そっと、頬に触れられる。

「……え?」
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