没落令嬢ですが偵察の一夜をきっかけに皇太子に溺愛されています
そっと、指で涙を拭われる。

「あなたを、幸せにしますから」

その言葉は、静かで――とても、温かかった。

(幸せ……)

この人となら。

きっと、穏やかで、安心できる日々が待っている。

苦しい思いをすることもない。

身分に悩むことも、誰かに責められることもない。

正しい道だと、分かっている。

(……そうよ)

これでいい。これが、私にとって一番の選択。

あの方の隣に立つことはできないのだから。

ならば――

私は、自分に言い聞かせる。

(この人とだったら……幸せになれる)

そう、何度も。

胸の奥にある、本当の気持ちに蓋をするように。

「……よろしく、お願いいたします」
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