愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
顔を上げた瞬間、前にいた遼河さんが隣に並び、大きな手がぐっと私の腰を抱いた。
人前で急に接近され頬を熱くしていると、遼河さんはダメ押しのように、私の頭のてっぺんにキスを落とした。鬼瓦さんがぎょっとする。
「あなたがどう思おうと、私は妻を愛しています。ですから、私の周りを嗅ぎ回っても何も出てきません。どうぞ悪しからず。――小雪、行くぞ」
「は、はい……」
鬼瓦さんをその場に残し、私たちはユリシスの車内に戻る。鬼瓦さんも渋々車の中に戻って行き、黒塗りの車は間もなく、我が家の前から走り去った。
遼河さんが、ハンドルを握ったままため息をつく。
「悪かったな。嫌な思いをさせて」
疲れた顔の彼にそう言われ、私は即座に首を左右に振った。
「いえ、遼河さんは悪くありません」
悪いのは、鬼瓦さんと……彼を納得させられる力量のなかった、契約妻の私だ。
遼河さんの前で言ったら否定されることはわかっていたので、声に出さずに呟いた。
「あんな男の言うことを真に受けるなよ。きみの魅力は、俺だけがわかっていればいいんだ」
「……ありがとう、ございます」
複雑な気持ちを口には出さなかったのに、まるで考えを読んだかのごとく、遼河さんがフォローしてくれる。
でも、私にそんな風に言ってもらえる魅力が本当にあるのかな……?
せっかく彼が励ましてくれても、私自身の根底にある自信が脆いせいで、信じたいのに信じきれない、そんな葛藤で心が揺れていた。