愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 気が滅入ることばかりなので、思わずため息をつきながら昼休みの廊下を歩く。

 あまり食欲がないので、ビルの一階に入っているコンビニで、サンドイッチとゼリー飲料だけを買ってきた。適当にお腹が満たされれればいいや、という投げやりな心境なのだ。

「仲真小雪さん」

 人事部のオフィスに戻る直前、女性の声に名前を呼ばれて振り返る。そこにはあまり会いたくなかった同僚、広報部の小鹿さんが立っていた。目が合うと、スタスタとこちらに歩み寄ってくる。

 今日は厄日なの……?

 胸の内で呟きながらも、ぺこりと頭を下げる。しかし、彼女が私に会いに来る理由がわからない。

「突然ごめんなさい。ちょっとお時間いいかしら?」
「は、はい。なんのお話でしょう?」
「あまり人に聞かれたくないから、とりあえず移動してからでいい?」

 彼女はそう言うと、人事部のオフィスとは反対側の方向へと歩いていく。

 やがて廊下の突き当たりの手前にある、ミーティングルームのドアを開けた。少人数での会議に使われる、およそ十五平米の部屋だ。

 後から入った私がドアを閉めると、小鹿さんは正面に置かれていた長机に腰を預け、腕組みをして私を見据えた。

 口元は微笑を浮かべているけれど、目が笑っていない。

< 169 / 206 >

この作品をシェア

pagetop