愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
――とはいえ。
「社長、すっごく怖かったよ……。先輩の資料をゆっくり確認している暇がなくて、突っ込みどころの多い仕事をしちゃった私が悪いんだけど、何度あの冷たい目に睨まれたことか」
『え~、逆に羨ましい。あの氷室社長に見つめられるなんて』
帰宅して父と夕食を取った後、私は大学時代からの友人、湧永琉美と電話していた。
食品専門商社で営業をしている琉美は、私とは対照的に社交的。それでいて人の気持ちに敏感で優しいため、友人の少ない私が唯一心の内をさらけ出せる貴重な相手だ。
垂れ目で締まりのない私の顔を『愛され顔』と評したのも彼女である。
「琉美、ちゃんと聞いてた? 見つめられたんじゃなくて睨まれたの」
自室のベッドの上、壁に背を預けて座りながら、スマホ越しの琉美に言った。
『だとしても、想像しただけでゾクゾクしちゃう。先週の『氷室エクスプレス』も見たよ。業界の難しい話はよくわからなかったけど、氷室社長のご尊顔を拝めるだけで価値があるから、自然といいね押しちゃった』
彼女のうっとりした声に脱力する。