愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 鬼瓦さんという人は相当厄介な人物らしい。『不倫』というワードに敏感になっているのも、彼を警戒するが故なのかもしれない。

「そこで、きみの登場だ」
「えっ? 私……ですか?」

 すっかり油断していたので、驚いて瞬きを繰り返す。

「鬼瓦さんのような方に対抗できるような能力はありませんが……」
「対抗なんかしなくていい。ただ、純粋に恋愛結婚を夢見ていたり、俺との結婚を必要以上に周囲にアピールしたくてSNSに不用意な投稿をしたり……そういう相手では鬼瓦に利用されるリスクが高いだろう。きみはそういうタイプではないから選ばれた」

 ……いや、恋愛結婚を夢見る気持ちはゼロではありませんよ。縁がないだけで。

 そう思ったけれど、氷室社長に対して甘い気持ちを抱かなければいいということなのだろう。話の腰を折らないよう、とりあえず黙っておく。

「婚姻届を出すという意味では普通の結婚と同じだが、お互いの人生を縛ってしまうのは本意ではない。だから、心地よく生活するための条件を定めた契約結婚にしないかと提案しているんだ」
「それであの〝婚前契約書〟だったんですね……」

 突然社長室に呼び出されてあの紙を渡された時はわけがわからなかったけれど、今になってようやく理解する。

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