愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる
社長はひと口ワインを飲むと、軽くテーブルに身を乗り出し、私をジッと見つめた。
「着飾ったりメイクに凝ったりするのに無頓着なだけで、肌や瞳は元々綺麗だろう。髪だって傷みもなく艶やかだし……女性ならどうにだって化けるさ」
褒められたかと思いきや、最後はいい加減にしめくくられたので反応に困る。
ハッキリ言えるのは、穴があくほど私を見つめる氷室社長の瞳こそ、綺麗で魅惑的だということ……。
「ひ、人を妖怪みたいに言わないでください」
結局、照れ隠しにそう言って、窓の方へぷいと顔を逸らした。しかし、そこに映った自分の頬が赤い気がして、ますます恥ずかしくなる。
テーブルの向こうで、社長がふっと笑う息遣いが聞こえた。
「まぁいい。話したいことは全部話したから、あとは食事を楽しんで。一応、バレンタインの夜だからな」
これから結婚するかもしれない相手だからか、それともこの食事にはお詫びの気持ちが含まれているからか、氷室社長の声は優しかった。
「……はい」
レストランに漂う、甘ったるい空気。来たばかりの頃は感じられなかったはずのそれが今になって私の肺に取り込まれたらしく、やけに胸が詰まった。