愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

 およそ二週間後の土曜の夜、俺は小雪のお父さんとふたりきりで会っていた。

 一般的に結婚の挨拶は当人が揃ってするものだと思っていたが、『男同士で話したい』という小雪のお父さんたっての希望で、彼女抜きで会うことになったのだ。

 料亭の一室で向かい合った初対面のお父さんからは、男手ひとつで小雪を育ててきた苦労などは感じられず、むしろ清々しく精悍な印象を受けた。

 日本酒で乾杯を済ませた後、お父さんが申し訳なさそうに俺を見る。

「氷室さん、今日はご無理を言ってすみません。彼女の父親とふたりで会うなんて気まずいでしょう」
「とんでもない。お父さんがどれだけ小雪さんを大切に育ててきたのかは、彼女から聞いています。一度、こうしてゆっくりお話したいと思っていたんです」

 姿勢を正し、好青年風に微笑みかける。

 笑顔の苦手な俺にとってはかなり労力のいる演技だが、男親がひとりで娘を育てる苦労に思いを馳せ、彼に尊敬の念を抱いたことに嘘はない。

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