愛なき契約結婚のはずが、クールな御曹司の激しい独占愛に堕とされる

「確かに。でも、会社には結婚自体秘密だから旧姓を使ってるし、あんまり名字が変わった実感はないかな。……ただ」
「ただ?」

 焼けた肉を小皿にのせながら、琉美が聞き返してくる。

 私の脳裏には、引っ越して三週間ほどが経った今でもまったく慣れない、遼河さんが所有する豪華な一軒家が浮かんでいた。

「生活環境が変わりすぎて、あの家が自分の帰る場所だって未だに思えないよ」
「ああ、前に電話で言ってたね。ガレージには高級車ばかりが三台、五十畳のLDKに、ガラス張りのバスルーム……。いいじゃない、セレブ妻って感じで」

 うっとり呟いた琉美は、肉をたっぷりのたれに浸してご飯の上に乗せ、口に入れる。

「いや、落ち着かないよ。とくにガラス張りのお風呂。脱衣所に鍵がかかるから誰も来ないってわかってても、ゆっくり寛げない」
「それは確かに。いちゃいちゃしたい新婚さんなら喜ぶんだろうけど、小雪たちには必要ないもんね。でも、気に入らないインテリアは氷室社長に言えば変えてもらえるんじゃないの?」

 琉美の質問に、一応こくんと頷く。

 契約の条件的には、確かに彼女の言う通り。家具や家電が不便だったり、カーテンの色、壁紙の柄などを変えたかったりする場合、夫婦で相談の上変更は可能だ。

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