*Lily*
退院後、初の現場復帰。

伊央はいつも通り、パリッとした制服に身を包み、署の廊下を颯爽と歩いていた。

「よし、今日からまた気合入れ直して……」

気合を入れようと両頬を叩いたとき、後ろからひょいと、温かい缶コーヒーが差し出された。

「病み上がりなんだから、あんまり鼻息荒くしないでくださいよ。また傷口が開いたら、今度こそ僕が寝込みます」

振り返ると、そこには少しだけ以前より柔らかい表情をした慧が立っていた。

「慧くん! もう、縁起でもないこと言わないで。私はもう、ピンピンしてるんだから」

「……そうですか? だったら、これからはもっとしっかり僕の背中、見ててくださいね」

慧はそう言って、伊央の横に並ぶ。

以前は少し後ろを歩いていた彼が、今は当たり前のように、肩が触れそうな距離で歩調を合わせている。

「あ、ねえ慧くん。……あの病室での話、まだ返事してなかったわよね」

伊央が少し顔を赤くして上目遣いに尋ねると、慧はふっと口角を上げ、意地悪そうに目を細めた。

「ああ、あれですか。……今はまだ、言わなくていいですよ」

「えっ、どうして?」

「返事を聞いちゃったら、僕、余裕なくなって仕事にならないかもしれないし。……今のこの、相棒以上恋人未満の感じも、悪くないでしょ?」

慧は伊央の頭にポンと手を置くと、そのまま足早に歩き出した。

「ちょっと! 待ちなさいって言ってるでしょ! 慧くん!」

慌てて追いかける伊央と、それを分かっていて歩みを緩める慧。

二人の足音は、昨日よりも力強く、新しい明日へと響いていった。
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