*Lily*
白いカーテンが微かに揺れる病室。

差し込む朝日の眩しさに、伊央はゆっくりと目を開けた。

脇腹に走る鈍い痛みは、あの夜の出来事が現実だったことを物語っている。

「……あ、先輩。やっと起きた」

枕元で、聞き慣れた、けれど少し掠れた声がした。

視線を向けると、そこにはパイプ椅子に座り、ひどく疲れ切った顔をした慧がいた。

いつも完璧に整えられている髪は乱れ、目の下には隈ができている。

「慧……くん。犯人は……?」

「……そんなこと、今はどうでもいいでしょ」

慧は短く吐き捨てると、伊央の手をぎゅっと握りしめた。その掌は驚くほど熱く、微かに震えている。

「怖かった。……伊央さんがいなくなるなんて、考えたくもなかった」

「慧……」

「僕は、家族も愛も信じないで生きてきた。誰かに深入りすれば、いつか失うのが怖かったから。……でも、先輩が撃たれた瞬間、分かったんです。僕にとって、あなたはもう『いなくてはならない存在』なんだって」

慧は伊央の手を自分の額に当て、絞り出すように言葉を続けた。

「……好きです。先輩としてじゃなく、一人の女性として。僕のそばにいてください。もう二度と、一人で勝手に行かせたりしない」

いつもは皮肉屋で余裕たっぷりの年下刑事が、今は子供のように必死な瞳で伊央を見つめている。

その真っ直ぐな告白に、伊央の胸は熱くなった。

「……生意気ね。指導係の私を、束縛するつもり?」

伊央は少しだけ悪戯っぽく笑うと、握られた手に力を込めた。

彼の孤独な過去を、今度は自分が温めてあげたい。そんな想いが溢れてくる。

二人の距離は、以前よりもずっと近くなった。

けれど、まだ「恋人」と呼ぶには少し照れくさくて。

「返事は、傷が治ってからたっぷり聞かせてくださいね、伊央さん」

慧が少しだけいつもの調子を取り戻して、優しく微笑む。

窓の外には、雨上がりの澄み渡るような青空が広がっていた。
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