偽王子と、甘い偽恋
腹黒王子の計画。
 それから二週間ほどかかり、全ての荷造りを終わらせて、ようやく引っ越しの日を迎えた。

 仕事が終わった後、臣くんが車で迎えに来てくれることになっている。

 そのまま新居のマンションへと移動する予定なのだけど、正直なところ、あまり実感は湧いていなかった。

 迎えに来てもらわなければ、いつもの癖で自分が住んでいた元の家へと帰ってしまっていたかもしれない。

 久しぶりに始まる臣くんとの生活が、楽しみで仕方がない。
 待ち望んでいたことがようやく叶う、という感慨深さもあった。
 つまり、今日の私は飛び切り浮かれている。

 機嫌よく仕事をこなしていると、隣の席の渋谷さんが顔を顰めてこちらを見ていた。


「恋愛したことない女が浮かれてるの見るの怖いんだよな。周り見えてなさそうで」

「なっ、そんなことないですよ!大丈夫です!」


 私の反論に笑うでもなく、渋谷さんはだるいという態度を全面的に出している。

 あんなに心配してくれていたのだから、私が幸せそうなのを少しは喜んでくれてもいいのに。この先輩、もしかしてツンデレか…?

 そんな失礼なことを考えながら、せっせと手を動かす。

 私の様子に渋谷さんもモニターの方を見ながら、言葉を投げてくる。


「浮かれすぎんなよ。遊ばれてるとか、そういうことを言うつもりはないけど、良い事はずっと続かねぇから。特に本格的に同棲なんかしたら、相手の嫌なところ見えて仕方ねぇと思うし」

「大丈夫です。最初の出会いから幻滅するような出来事、そうそうないと思うんで」

「それはそれでどうなの?」


 呆れたようにツッコまれたけれど、私は特に気にしていなかった。
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