偽王子と、甘い偽恋
「まあ、あのさ、完璧な人間はいないって事だけは、わかってると思うけど言っとく」

「え?」

「優菜が気にしてた。本田さんが少し心配だって。初めての恋愛で周りが見えなくなってないかって」


 佐々木さんと渋谷さんが、裏でそんな話をしていたこと自体が意外だった。
 私のことを、そんなふうに心配してくれていたなんて。


「相手の事知らないから、良い所ばっか見えるのは当たり前の話。取り繕った姿しか見てないんだから。だけど、人間には良い部分に反して、同じくらい最低な部分もあるって事は考えた方がいいと思うよ」

「…そう、かもですけど…」

「まあ、今はわかんないと思う。恋愛って、思い切り傷付いてようやくわかる部分もあるから、一回本気で恋愛して傷付けばいいって俺は思うから」

「何でですか!傷付く前に先輩の経験談で止めてくださいよ!」

「聞いて止まる女じゃないのは、よーく知ってる。だから、優菜にもあまり入り込まない方がいいよって言ってるし」

「なんてこと言うんですか!」


 佐々木さんにまで余計な根回しをするなんて!

 隣に座る無情な先輩を睨みつけるが、渋谷さんは特に反応することもなく、変わらず淡々と資料に目を通している。


「まあ、そもそもアピールも出来ない様じゃ無理か」

「聞いたことある様な構文使うのやめてください」


 そんな軽口を叩き合いながらも、私の頭の中はおみさんのことでいっぱいだった。

 再び恋にお花畑になっていたこの時に、渋谷さんや佐々木さんのアドバイスを聞いておけばよかったと、後に深く後悔することになる。
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