偽王子と、甘い偽恋
運命の王子様は、偽王子?
 当然、カフェの店員さんとそう簡単に接点など持てるはずがない。
 精々、カフェに通い詰めて常連になるくらい。

 カフェでランチを済ませるようになってから、ようやく顔と名前を覚えてもらえた。

 ちなみに、相手の情報も少しずつ手に入れた。やはり彼の名前はおみさんで合っているらしい。年齢は二十四歳、私の二歳上だ。年齢的にも年上好きな私からすれば、もう最高の設定である。

 そう思いながらも、具体的なアピールはできないまま、おみさんと再会してから二カ月が経っていた。その間に、渋谷さんと佐々木さんはお付き合いをスタートさせていた。全力で浮かれている私の指導係は、今も鼻歌を歌いながら資料に目を落としている。幸せそうで何より。

 そう思いつつも、私は少し強めにキーボードを打ち込んでいた。


「運命の王子様とやらは進展あった?」

「くだらないこと聞いたら、口曲げますよ」

「そんな事言ってるけど、俺は一応先輩ね」


 そんな言葉は右から左へ受け流し、私はひたすら作業に没頭した。

 私だって、どうにかしたい。

 だけど、自分で思う以上に上手く動けないことに焦りを感じていた。

 恋を掴むためなら、どんな努力も惜しまないはずだったのに、今の私は一歩も踏み出せない。連絡先を聞くことも、短い接客時間の中で積極的に話しかけることもできない。

 単純に、まだあまり知らない相手なのに、また見た目に惚れ込んでしまっているせいもあると思う。

 よく知らない。そう分かってはいるけれど、あの日、周囲に人がいたにもかかわらず、真っ先に助けてくれたのは臣さんだけだった。そんな彼の優しさに、私はどうしようもなく胸を打たれてしまった。
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