偽王子と、甘い偽恋
「…大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「…さっきのは、彼女さんですか?」

「まあ、そんなもんです。もう違いますけど」


 そう言いながら、彼はハンカチを握り「洗って返しますね」と言ってくれたが、そんなことは今の私にはどうでもよかった。

 何があったのか深くは聞けない。
 こういう時にどう振る舞えばいいのかも分からない。


「…同棲してた彼女だったんです。もう二度と近寄るなって言われちゃいましたけど」

「え…?じゃあ、家は」

「なくなっちゃいました」


 そう言って屈託なく笑うおみさんに、私は言葉を失う。

 家がなくなったなんて、普通ならそんな笑顔で答えられるはずがない。

 唖然としている私を余所に、彼は楽しそうに目を細めた。


「ねえ、りりかさん?」

「は、い?」

「今日だけで良いんで、泊めてくれません?」

「ええ!?」


 まさかの発言に思わず声を上げると、また周囲の目が一斉に自分へと集まる。

 こんな顔面国宝級の男性を家に泊めるなんて、とんでもない。

 関わるきっかけを必死に探してはいたけれど、まさかこんな形で願いが叶うなんて思いもしなかった。


「だめですか?」


 そう言いながら私の顔を覗き込み、甘えてくるような声。

 こんな顔面国宝のお願いを、どこの女性が断れるのか、連れてきてほしい。
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