偽王子と、甘い偽恋
Epilogue
「おみー!」

「誰がおみだ、クソガキ」

「臣くん口悪い!」


 土曜の昼下がり、リビングに響くのはそんな賑やかな会話。

 元気よく「おみー!」と呼ぶのは、我が家の愛おしい小さな姫様、小夜《さよ》。実に小生意気で、それでいて最高に可愛らしい三歳児。ふわふわ、キラキラしたものが大好きで、今は絶賛プリンセスに憧れている最中。

 彼女は今、お気に入りのアニメソングに合わせて絨毯の上を元気よく飛び跳ねている。


「姫はもっと上品って知ってた?」

「じょーひん?」

「姫は絨毯の上で飛び跳ねないってこと」


 臣くんがそう教えた瞬間、小夜は分かりやすく歩き方を変えた。足を不自然にクロスさせ、モデルの真似事のようにクネクネと歩き始める。

 私と臣くんは同時にいや、絶対そうじゃないだろと心の中で突っ込んだけれど、その懸命な姿がおかしくて思わず顔を見合わせて笑った。


「何かどっかの誰かさんも小さい時こんなんだったんかなって、安易に想像つくな」

「やめてよ」

「こじらせないといいけど」

「やめてよ!!!!」


 ソファに座る臣くんの肩をクッションでボフッと鳴らしながら叩くと、彼は慣れた手つきでそれをガードする。


「可愛いな」


 ふいに零れた臣くんの本音に、私は動きを止めて目を見開いた。

 かつての彼は子供好きには到底見えなかったけれど、今の彼は、テレビの映画に夢中になっている小夜へ、慈しむような視線を向けている。


「子供好きになった?」

「自分の子は可愛いな」


 そう断言する臣くんの横顔を見て少し笑っていると、不意に視界が影に覆われた。

 驚いてソファの背もたれに身を預けた瞬間、唇に柔らかい感触が重なる。

 呆然とする私の目を、臣くんは至近距離でじっと見つめて離さない。


「でも、俺だけの姫様が一番可愛い」

 耳元でそう囁かれ、心臓が跳ね上がる。

 目の前で不敵に微笑むのは、出会った頃と変わらない腹黒王子だ。


「な、何なの!?急に!」

「愛情表現して甘やかしとかないとな~って」


 そんなタイプでもなかったくせに…!

 動揺して顔を赤くする私を見て、臣くんはご機嫌そうな表情を浮かべている。

 苗字が変わっても、子供が生まれても、私は今日も明日も、この偽王子の甘い罠に振り回され続けていくのだと思う。



『偽王子と、甘い偽恋』Happy end.₊˚⊹♡
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