偽王子と、甘い偽恋
「なっ、こんな所撮らないでよ!もっとかわいい時に撮るとか、せめて一言言ってくれれば準備するのに!」


 そう怒る私を見て少し笑い、彼はスマートフォンの中の写真に視線を落とした。


「なら、集中しろよ。デートが楽しいと思えたら必然的に可愛い顔になんだろ。俺も楽しませるようにするから、お前も楽しむ準備だけしとけ」


 確かに、人と出かけている時に他のことを考え込むのは失礼だったかもしれない。

 このデートの間くらい、恋する乙女のようになってもいいんじゃないか。好きだと気付いても気付かなかったとしても、相手と一緒にいることを楽しもうとすれば、今日はきっと楽しくなる。

 臣くんは再度こちらにカメラを向けてきた。
 私は食べかけのミルクレープを持ち上げ、カメラの方を見てみる。


「食いかけを見せんなよ。自然体にしてろって」

「ええ!ミルクレープと写る私、可愛いを演出したかったのに!」

「その考えが可愛くねぇよ」


 淡々とツッコむ臣くんに笑って、ミルクレープを食べ始める。臣くんはレンズ越しにずっと私を見つめ、時折シャッターを切った。

 そんなことが照れくさくて、ふとした瞬間に視線を臣くんの方へやると、彼は少しだけ微笑んでシャッターを切ってくれる。


「いいじゃん。さっきより可愛い顔してる」


 そうやってさりげなく、自然に「可愛い」なんて言えるところ。きっと言い慣れているのだろう。

 振り回されたくなんかないのに、彼に可愛いと言われると、ほんの少し浮かれそうになる。

 結局、彼から「可愛い」と言われることが、私は堪らなく嬉しいのだと思う。
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