偽王子と、甘い偽恋
 わかりやすく黙り込んだ私の顔を見て、臣くんは顔を顰めていた。


「…こんなことで赤くなんなよ」


 そんな風に言って顔を逸らし、窓の外を見ている。

 どうして彼にだけ、こんなに照れくさくなるのか、わからなかった。
 何も思わない相手に、こんな感情を抱くことはなかった。
 渋谷さんにですら、こんなに胸が締め付けられるようなことなんて、なかった。

 これが恋をするということなのか、恋をしたことがない私には判別がつかない。でもきっと…。

 そこまで考えて、ハッとした。

 だって、臣くんが私の家にいる理由は、お互いに恋に落ちることがないからだと言っていた。だとしたら、臣くんは私との関係が進むことを望んでいないはず。

 だから、この感情が恋だと気付いたところで、私は臣くんと先へは進めない。

 理想のタイプは、臣くんとは真反対の、かけ離れた人のはずだった。だから、絶対に恋なんてしないと思っていた。

 それなのに…、もやがかかったような、自分の曖昧な感情。


「何、その顔。デート中に見せる彼女の顔じゃねぇだろ」


 臣くんにそう指摘され、慌てて意識を現実に戻した。


「ごめん。ちょっと考え事」

「……」


 臣くんはそれから何かを言うこともなく、スマートフォンを取り出した。そして、ケーキを少しずつ食べている私にカメラのレンズを向け、不意に写真を撮った。
< 55 / 177 >

この作品をシェア

pagetop