偽王子と、甘い偽恋
まだ帰ってこない、腹黒王子。
 あれから、すぐに帰ってきてくれると思っていた臣くんは、結局帰ってこなかった。今も連絡は返ってこない。

 もしかして、あれは私のことではなかったのだろうか。何もかも私の勘違いだったのか。そう思わずにはいられないほど、彼からのアクションは何一つなかった。

 臣くんのことはネットニュースやSNSで一時的に騒がれはしたものの、今は落ち着きつつある。あの記者会見から、もう一か月が経とうとしていた。

 一か月も経てば会見の話題自体は薄れていくが、臣くんの存在が公になったことで、彼にはかなりの数のファンがつくようになっていた。

 人気俳優やモデル並みに騒がれ、SNSではいまだに会見時の彼の顔写真がアップされ続けている。それを見るのは、ものすごく複雑な気分だった。

 ぼーっとしながら、いつも通り仕事をこなしていると、渋谷さんが外回りから戻ってきた。


「ぼけっとしてんな」

「すみません。あ、先程言ってた請求書はFAXで先方にお送りしています」


 いつものように渋谷さんの軽口に言い返す気力すら起きない。

 私の頭の中は、今も臣くんのことでいっぱいだった。


「本田さん」

「はい」

「今日優菜と飲みに行くんだけど、来る?」


 まさかの誘いに、軽く目を見開いた。

 …きっと、気を遣わせているのだと思った。
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