初恋が始まるとき。
Episode9
 残業は予想通り、渋谷さんと昼を共にした数日も続き、変わらず渋谷さんには会えない。見掛ける事だけはある。それも、新人のあの子と一緒に。

 緩く巻かれ綺麗にセットされたふわふわでさらさらのロングヘアー。メイクは柔らかい印象を与えるもので凄く愛らしく、笑顔が更に可愛らしさを増す。

 渋谷さんの隣に立つのが似合っていて、また低めの身長が横に並ぶと尚更可愛らしく見える。

 渋谷さんも笑顔で対応していて、あれがあの人が女性と接するときの普通だったはずなのに、私はいつからか受け入れられなくなっていた。

 見ているのが辛くて、エレベーターをわざとずらして乗ったり遠回りしたりすることも増え、ほんの少し私が渋谷さんを避けることも無意識に増えていた気がする。

 そうしてもほぼ毎週高確率で本田さんとは顔を合わせなければならないのだけど。


「佐々木さん!精算おねがいします!」

「はい」


 いつも通り本田さんから出金伝票と精算書を受け取り、計算をしていく。毎度会うからか本田さんも私に対して緊張はなくなり、笑顔で話してくれることが増えた。


「もうすぐゴールデンウィークですよね。どこか旅行とか行くんですか?」

「あー…、どうだろう」


 渋谷さんと日帰り旅行に行こうみたいな話があったけれど、あれについては進んでいない。連絡もお互い多忙のため頻度が減っているから中々相談も出来ていなかった。

 その事を思い出して返事に悩んでいると「ゴールデンウィーク、みんな動くからどこも混雑しますよね」と沈黙の間を埋める様に自然に話していた。

 こういう人を気まずく感じさせない気遣いの出来る所も、完璧に感じる。
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