初恋が始まるとき。
 渋谷さんがいなくなった木曜日と金曜日はすごく静かだった。いつもは毎朝、経理課に来て私に処理を頼まなくても絶対絡んでくるほどで、うんざりしていたのだけど、無いと少し違和感を感じる体になってしまっていた。

 おかげさまで金曜日の帰り際、こんなことを考えていた自分に嫌気がさして自分に舌打ちをした、その次の月曜日の朝…───。


「おはよう、優菜ちゃん。久々」


 そう言いながら笑顔で手を振ってくる渋谷さんを変わらず冷めた目では見ていたが、どこかいつも通りの日常に安堵してしまっていた自分がいた。

 当然会いたかったとか、渋谷さんを気になり始めたとか、そんな感情ではない。いつもと違う日常が、ほんの些細な事でも変わっていると不安に感じてしまっていたのだ。

 気の強いくせして、こういうところが憶病で自分に呆れてしまう。

 当然こんなこと渋谷さん本人に話したりなどしない。


「久々って、たった丸3日間会わなかっただけじゃないですか。木曜日の朝は会っていたわけですし」

「そういう時は嘘でも会いたかったです~、とか、せめてお久しぶりですって当たり障りなく返せよ」

「普段の渋谷さんとの会話に、気を遣うリソースはさけなくて…」

「人との他愛のない会話にリソースとか使うな」


 それはそうだけど、この人にツッコまれるのはなんだか癪に障る。
< 13 / 132 >

この作品をシェア

pagetop