初恋が始まるとき。
「…誰かを喜ばせようって思ってデートしたの、大人になってからは初めてかもな」

「今まではそうじゃないって?」

「何か誰とでもデートする男って思われてんな。遊びの子と、こんな健全なデートしないだろ。昼から1日使って。だりい」

「性欲の為なら苦労するのかなと」

「モテない男は必死でお膳立てするかもな。ムード作らなきゃできないだろうし」

「うわ、もう最悪」

「そっちが言ったくせに」


 こんないい雰囲気になっても毎度しまらない。

 私のせいという自覚はあるけれど、今は何でも確かめないと気が済まないから。

 渋谷さんが考えていることをどうせなら全部知りたい。


「最初は多分、ただの興味だったと思う。男嫌いって言ってるのを聞いて、それを落としたら楽しそうとか思ってたし」

「マジで最悪ですからね。頭100回は打ってほしいレベルで」

「ごめんって」


 謝る渋谷さんに溜息を吐くと「でもさ」と言葉を続ける。


「関わっていく内に興味じゃ終わらなかった。意外と感情がいっぱい出るところも素直なところも、ぶつかる時は全力なところも全部いいなって」


 渋谷さんの優しい声に驚いて、彼の方に向くと彼もまたこちらに向いていた。

 目の前の景色がぼやけてしまって、この人の事しか見えなくなった。

 いいなって、どういう意味で?

 その言葉がわからないほど鈍くはないけれど、この人の言葉をまだそのまま受け取っていいのかわからないから。


「…いいなって…」

「もし優菜ちゃんが恋したくなったその時は俺を選んでくれたらいいのにって思ってる」


 そう言いながらそっと手を取られ、口元に持っていかれ、言葉が出なくなった。

 優しく扱うような仕草。渋谷さんの唇が指先に当たり顔が熱くなる。

 それから私の方を見ると「…考えといて」と低い声の中に甘さを感じるようで、頭が真っ白になる。

 私が恋をしたくなったその時、なんていつになるのかもわからない。

 前に進むことに怯えていて、そんな私がこの人の手を取れる時なんてあるのか。
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