初恋が始まるとき。
「まだ答えなんか教えてやらない」

「は、なんで?」

「その方が長く俺の事考えててモヤモヤしててくれるんでしょ?最高じゃん」


 人が本気で悩んでいるというのに楽しそうなこの男。私はスッキリしたいのに、この男はそれを許さず悩み続けて渋谷さんのことを考え続けろと言う。

 人が悩んでいるのを見て楽しむなんて悪趣味にも程がある。


「…考えるの面倒になってやめるかもしれないですけどね」


 強がりからかそう言い放ち、中ジョッキに入ったアルコールを体内に一気に流し込み、タッチパネルを操作する。

 この男に真剣に取り合っても時間の無駄だとわかっているのにやめられないのは、きっと私もこの人を好きになりかけているから。

 でも、遊ばれていた時が悔しいから、まだこれを恋だと認めたくないのだと思う。

 怒りながらもタッチパネルで色々操作をしていると突然渋谷さんが隣に座って距離を詰めてくる。

 それに驚いて目を見開き隣の渋谷さんのことを見ると、渋谷さんは真顔で、その中に妙な色気を放っていて、ネクタイを緩めシャツのボタンを1つ開けたそこから細い首筋がよく見える。

 それから視線を渋谷さんの目に合わせると、こちらをじっと見つめていてその距離は数十センチ程だった。
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