野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)
その後は、わざわざお手紙を送るのも気恥ずかしくていらっしゃる。
それでもちらりと見た女君(おんなぎみ)の姿をお忘れになれない。
物思いにふけっているということも、男性にとっては魅力(みりょく)的(てき)なのよね。

翌月、中将(ちゅうじょう)様は用事のついでに小野(おの)の家にいらっしゃった。
女房(にょうぼう)を通じて、
「姫君(ひめぎみ)に一目(ひとめ)ぼれしてしまったのです」
とおっしゃる。
浮舟(うきふね)の君(きみ)はまったくお返事するつもりがなさそうなので、尼君(あまぎみ)がお返事なさった。
「何もお話しにならないので、私にもはっきりとしたことが分かりません。心に決めた人がいらっしゃるのか、それとももう少ししたらお気持ちが変わるのか」

尼君が客席の近くまで出ると、中将様は熱心にお願いなさる。
「姫君はお悩みを抱(かか)えておいでとのことですが、どのようなご境遇(きょうぐう)なのでしょうか。私も人生を楽しめず、いっそ出家(しゅっけ)したいと思いながらも、両親が嘆(なげ)くだろうと遠慮(えんりょ)しております。今の妻は正反対の陽気な性格ですから話が合わないのです。ぜひこちらの姫君に話し相手になっていただきたい」

「たしかにそういうお話し相手には最適(さいてき)な人かもしれませんが、今のところ結婚にご興味がないようなのです。ひどく世間を恐れて、尼(あま)になりたいとしかおっしゃいません。ただ、年老いた私でさえ、いざ出家するときには心細く思いましたからね。あれほどお若い人が出家なさっても、寂(さみ)しい修行(しゅぎょう)生活に耐(た)えていけるかどうか」
尼君はまるで母親のように心配しておっしゃる。
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