野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)
その翌日も、大(おお)尼君(あまぎみ)と見知らぬ女のために病気回復のお祈りがつづけられる。
そこへこのあたりに住んでいる男がやって来た。
昔僧都(そうづ)にお仕えしていた男で、僧都が宇治(うじ)の院(いん)にお越しになっていると聞いてご挨拶(あいさつ)に上がったみたい。
いろいろと世間話をするなかで申し上げる。
「昨日ご挨拶に上がろうと思ったのですが、急な仕事が入りまして。亡き八(はち)の宮(みや)様の姫君(ひめぎみ)で、薫(かおる)の君(きみ)の恋人だった方が、とくにご病気というわけでもなくお亡くなりになったそうなのです。そのご葬儀(そうぎ)のお手伝いに行っておりました」

僧都は、
<もしかしたらその女君(おんなぎみ)の魂(たましい)が鬼(おに)に連れられてここまで来て、人間の姿になっているのだろうか>
と考えてごらんになるけれど、魂でできた幻(まぼろし)の姿ならいつか消えてしまう。
それも恐ろしい。

「そういえば昨夜、遠くに火葬(かそう)のような火が見えましたね。でも、ほんのわずかでしたよ」
女房(にょうぼう)が怪(あや)しむと、
「わざとあっけないご葬儀になさったようです」
と答えて男は帰っていった。
女房たちは首をかしげて、
「大君(おおいぎみ)ならもう何年も前にお亡くなりだけれど、いったい誰と勘(かん)違(ちが)いしているのかしら。それに薫の君は女(おんな)二(に)の宮(みや)様とご結婚なさっているのだから、他の女君(おんなぎみ)を恋人になさるとは思えないわ」
などと言っている。
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