地味なカフェ店員ですが一夜の相手が社長で溺愛されています
その人は、きっと。

私なんかとは違って、最初から選ばれる側の人で。

同じ場所に立っている人。

そう思った瞬間。

昨夜のことが、少しだけ遠く感じた。

あの優しさも。あの言葉も。

もしかしたら、特別なものじゃないのかもしれない。

「……やめよう」

小さく、心の中で呟く。

期待しすぎると、また同じことになる。

わかっているはずなのに。

少しだけ温かくなっていた心が、ゆっくりと冷えていくのを感じていた。

カウンターの中で手を動かしながら、私はさっきの言葉を振り払おうとしていた。

けれど、一度浮かんでしまった記憶は、簡単には消えてくれない。

――やっぱり、同じだ。

胸の奥で、過去が静かに蘇る。

あれは、まだ今よりも少し若かった頃。
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