地味なカフェ店員ですが一夜の相手が社長で溺愛されています
「ありがとうございます」

短くそう言って、視線を外す。

「……では」

静かに、言葉を選ぶように続ける。

「一度、すべて白紙に戻しましょう」

胸が、きゅっと痛む。

それでも、彼の声は変わらない。

「そのうえで、改めて」

ほんの少しだけ、こちらを見る。

「最初から、やり直させていただけませんか」

その言葉に、返事ができない。

頷くことも、否定することもできずに、ただ立ち尽くす。

悠生さんはそれ以上何も言わず、カップを持ち上げた。

一口、静かにコーヒーを飲む。

「……やはり、美味しいですね」

いつもと同じ言葉。

それなのに、どこか違って聞こえる。

そのまま、何事もなかったかのように会計を済ませると、

「では、また」
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