地味なカフェ店員ですが一夜の相手が社長で溺愛されています
家の前に着くと、私は鍵を取り出しながら少しだけ迷った。

でも、振り返ると悠生さんが静かに立っていて。

その視線に、自然と決心がつく。

「……よかったら、少しだけ上がっていきますか」

小さくそう言うと、彼は驚いた様子もなく頷いた。

「では、お言葉に甘えます」

ドアを開けて中に入る。

見慣れたはずの部屋なのに、今日はどこか落ち着かない。

「すみません、あまり広くなくて……」

「落ち着く空間ですね」

そう言われて、少しだけ肩の力が抜ける。

キッチンに立ち、簡単な夕食を用意する。

冷蔵庫にあるもので、できるものを。

「無理をされなくても」

後ろから、穏やかな声がする。

「いえ……何かしたくて」

振り返らずに答えると、彼はそれ以上何も言わなかった。

やがて、テーブルに料理を並べる。
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