面識のなかった同級生と名前のない関係になったら、隙間なく重なる相性で離れられなくなった
第六話:あーあ。もうこれは……好きだなあ
「……ん……」
瞼に落ちる朝日が眩しくて、ゆっくりと目が覚める。
光の差す方へ視線を巡らせると、ベランダとの境界をつくるレースカーテンが、少しだけ開いていた。
窓の向こう側に、光の中で煙草を吸う芦田くんの後ろ姿が見える。
(…………カッコいい)
まだぼんやりとした頭で、その広い背中を見つめる。
昨晩、また流されてしまった。
しかも、一回じゃなくて、何回も……。
それに、求められるだけじゃなくて、私の方からも……。
(…………っ……)
シーツの中での自分の大胆な言動を思い出し、一気に顔が熱くなり、思わず両手で覆った。
窓越しの彼に視線を移すと、そのまま離せなくなる。
私はもう、自分の気持ちを誤魔化すことができなくなっていた。
(……あーあ。もうこれは……好きだなあ)
女性は関係を持つと相手を好きになってしまうとよく言うけれど、その説を今、身をもって実感している。
身と心を切り離して割り切るなんて、どうしても難しかった。
こんな関係にならなければ、遠くから眺めるだけの『ただのカッコいい同級生』だと思えたのに。
でも、彼の腕の中で感じた熱や安心感を思うと、なかったことになんて絶対にできない自分がいた。
カラカラ。
控えめな音がしてガラス戸が開く。
一服し終えて部屋に戻ってきた芦田くんは、目を覚ましている私に気づいた。
「起きてたんだ」
「……おはよう」
服を着ていなかったので、慌ててシーツを首元まで引き上げ、身体を隠しながら朝の挨拶をする。
「……隠す意味ある?」
彼はフッと意地悪に笑い、「もう全部見てるし」とでも言いたげな視線を向けてくる。
そのまま、ベッドの端にギシッと音を立てて腰かけた。
「…………」
恥ずかしすぎて返す言葉もなく、シーツをぎゅっと掴んだまま黙り込む。
そっと顔を寄せられた。
反射的に瞳を閉じたけれど、数センチ手前で、ふとその気配が止まる。
「……やべ。あぶねー」
彼は我に返ったように顔を逸らし、小さく呟く。
そのまま立ち上がって、私に問いかけた。
「朝飯、いる?」
◇
ローテーブルの上に、朝食が並べられていく。
バターを塗ったこんがりトーストに、瓶詰めの苺ジャム。
そして、淹れたてのブラックコーヒー。
「……わあ、美味しそう。いただきます」
「んー」
外はよく晴れていて、窓の隙間から心地よい風が入り込んでくる。
その柔らかな空気と、コーヒーやトーストの香りが混ざり合って、部屋の中を穏やかに流れていた。
苺ジャムをたっぷりと乗せたトーストを一口かじる。
(わ、懐かしい)
この甘酸っぱい味、いつぶりだろう。
ふとテーブルに置かれたジャムの瓶を見ると、新品ではなく、もう三分の一くらいまで減っていた。
「……好きなの? 苺ジャム」
思わず聞くと、彼はトーストをかじりながら平然と答える。
「うん。一番美味くね?」
(……その顔で、苺ジャムが一番好きなんだ)
意外すぎるギャップに、ちょっとにやけそうになるのを必死に堪える。
「なに?」
怪訝そうな顔で聞かれ、「いや、別に……」と誤魔化した。
「あ、ごめん。そういえば、ブラックだけど飲める?」
彼は淹れたてのコーヒーを顎でくいっと指した。
「うん、好き」
マグカップを手に取って口をつけながら答えた直後、ハッとした。
(いや……『好き』なのは、コーヒーだからね!?)
自分自身の発した言葉が、まるで『芦田くんが好き』と言っているような響きに聞こえてしまって、一人で勝手に焦る。
「…………」
それを誤魔化すように、熱いコーヒーを啜った。
◇
朝食を終え、食器を片付けようと手を伸ばすと、「いいから」と制されてしまった。
彼女でもないのに、無理にキッチンに立つのも図々しい気がして、ここは大人しくお言葉に甘えることにする。
ベランダの窓際。
ガラス戸を開けて縁に腰掛けると、あたたかくて気持ちのよい陽だまりと、柔らかい春風に包まれた。
部屋の奥から聞こえてくる、彼が食器を洗うカチャカチャという音をBGMにしながら、そっと目を閉じる。
ここに来るのはまだ二回目なのに、なんでこんなに居心地がいいんだろう。
私たちは恋人でもないし、もしかしたら、まだ友人と言える関係ですらないかもしれないのに。
そういえば前回も、朝になってもさっさと追い出されるようなことはなく、この空間の心地よさに甘えて、だいぶゆっくりさせてもらってから帰ったのだった。
水音が止み、代わりに彼の足音が近づいてくる。
背後に気配を感じた次の瞬間、私をすっぽりと包み込むようにして、彼がすぐ後ろで腰を下ろした。
「終わったよ」
「…………っ」
わざと耳元を掠めるように落とされた低い声に、身体が震えてしまう。
たまらず振り返る。
そして引き寄せられるように、自分から彼にキスをしてしまった。
「…………」
少し驚いたように目を見開いた彼だったが、黙ったまま私の唇をじっと見つめ返してくる。
そして、そのまま背後の床へ仰向けに倒れ込みながら私の腕をグッと引き、彼の上に乗っかるような形にさせられた。
あえて受け身の体勢をつくって、目で私を促してくる。
その意図通り、私は彼を見下ろしながら、自分から何回も唇を重ねた。
やがて、彼が私の身体をクルッと反転させ、今度は私が下になるように入れ替える。
そして彼の方から、覆い被さるようにして、熱いキスが何度も返された。
陽だまりにあたためられたフローリングの床の上で。
私たちは長い時間、飽きもせずにただ唇を重ね合っていた。
瞼に落ちる朝日が眩しくて、ゆっくりと目が覚める。
光の差す方へ視線を巡らせると、ベランダとの境界をつくるレースカーテンが、少しだけ開いていた。
窓の向こう側に、光の中で煙草を吸う芦田くんの後ろ姿が見える。
(…………カッコいい)
まだぼんやりとした頭で、その広い背中を見つめる。
昨晩、また流されてしまった。
しかも、一回じゃなくて、何回も……。
それに、求められるだけじゃなくて、私の方からも……。
(…………っ……)
シーツの中での自分の大胆な言動を思い出し、一気に顔が熱くなり、思わず両手で覆った。
窓越しの彼に視線を移すと、そのまま離せなくなる。
私はもう、自分の気持ちを誤魔化すことができなくなっていた。
(……あーあ。もうこれは……好きだなあ)
女性は関係を持つと相手を好きになってしまうとよく言うけれど、その説を今、身をもって実感している。
身と心を切り離して割り切るなんて、どうしても難しかった。
こんな関係にならなければ、遠くから眺めるだけの『ただのカッコいい同級生』だと思えたのに。
でも、彼の腕の中で感じた熱や安心感を思うと、なかったことになんて絶対にできない自分がいた。
カラカラ。
控えめな音がしてガラス戸が開く。
一服し終えて部屋に戻ってきた芦田くんは、目を覚ましている私に気づいた。
「起きてたんだ」
「……おはよう」
服を着ていなかったので、慌ててシーツを首元まで引き上げ、身体を隠しながら朝の挨拶をする。
「……隠す意味ある?」
彼はフッと意地悪に笑い、「もう全部見てるし」とでも言いたげな視線を向けてくる。
そのまま、ベッドの端にギシッと音を立てて腰かけた。
「…………」
恥ずかしすぎて返す言葉もなく、シーツをぎゅっと掴んだまま黙り込む。
そっと顔を寄せられた。
反射的に瞳を閉じたけれど、数センチ手前で、ふとその気配が止まる。
「……やべ。あぶねー」
彼は我に返ったように顔を逸らし、小さく呟く。
そのまま立ち上がって、私に問いかけた。
「朝飯、いる?」
◇
ローテーブルの上に、朝食が並べられていく。
バターを塗ったこんがりトーストに、瓶詰めの苺ジャム。
そして、淹れたてのブラックコーヒー。
「……わあ、美味しそう。いただきます」
「んー」
外はよく晴れていて、窓の隙間から心地よい風が入り込んでくる。
その柔らかな空気と、コーヒーやトーストの香りが混ざり合って、部屋の中を穏やかに流れていた。
苺ジャムをたっぷりと乗せたトーストを一口かじる。
(わ、懐かしい)
この甘酸っぱい味、いつぶりだろう。
ふとテーブルに置かれたジャムの瓶を見ると、新品ではなく、もう三分の一くらいまで減っていた。
「……好きなの? 苺ジャム」
思わず聞くと、彼はトーストをかじりながら平然と答える。
「うん。一番美味くね?」
(……その顔で、苺ジャムが一番好きなんだ)
意外すぎるギャップに、ちょっとにやけそうになるのを必死に堪える。
「なに?」
怪訝そうな顔で聞かれ、「いや、別に……」と誤魔化した。
「あ、ごめん。そういえば、ブラックだけど飲める?」
彼は淹れたてのコーヒーを顎でくいっと指した。
「うん、好き」
マグカップを手に取って口をつけながら答えた直後、ハッとした。
(いや……『好き』なのは、コーヒーだからね!?)
自分自身の発した言葉が、まるで『芦田くんが好き』と言っているような響きに聞こえてしまって、一人で勝手に焦る。
「…………」
それを誤魔化すように、熱いコーヒーを啜った。
◇
朝食を終え、食器を片付けようと手を伸ばすと、「いいから」と制されてしまった。
彼女でもないのに、無理にキッチンに立つのも図々しい気がして、ここは大人しくお言葉に甘えることにする。
ベランダの窓際。
ガラス戸を開けて縁に腰掛けると、あたたかくて気持ちのよい陽だまりと、柔らかい春風に包まれた。
部屋の奥から聞こえてくる、彼が食器を洗うカチャカチャという音をBGMにしながら、そっと目を閉じる。
ここに来るのはまだ二回目なのに、なんでこんなに居心地がいいんだろう。
私たちは恋人でもないし、もしかしたら、まだ友人と言える関係ですらないかもしれないのに。
そういえば前回も、朝になってもさっさと追い出されるようなことはなく、この空間の心地よさに甘えて、だいぶゆっくりさせてもらってから帰ったのだった。
水音が止み、代わりに彼の足音が近づいてくる。
背後に気配を感じた次の瞬間、私をすっぽりと包み込むようにして、彼がすぐ後ろで腰を下ろした。
「終わったよ」
「…………っ」
わざと耳元を掠めるように落とされた低い声に、身体が震えてしまう。
たまらず振り返る。
そして引き寄せられるように、自分から彼にキスをしてしまった。
「…………」
少し驚いたように目を見開いた彼だったが、黙ったまま私の唇をじっと見つめ返してくる。
そして、そのまま背後の床へ仰向けに倒れ込みながら私の腕をグッと引き、彼の上に乗っかるような形にさせられた。
あえて受け身の体勢をつくって、目で私を促してくる。
その意図通り、私は彼を見下ろしながら、自分から何回も唇を重ねた。
やがて、彼が私の身体をクルッと反転させ、今度は私が下になるように入れ替える。
そして彼の方から、覆い被さるようにして、熱いキスが何度も返された。
陽だまりにあたためられたフローリングの床の上で。
私たちは長い時間、飽きもせずにただ唇を重ね合っていた。