万華鏡は月を巻き戻す
羽瑠24歳。
看護師として働き始め数年たった。
朝のナースステーションは慌ただしく、
電子カルテの光が青白く反射している。
私はカルテを抱え、黒木のもとへ歩く。
「黒木先生、オペ後の山田さんですが。食事があまり取れていないようで。」
「じゃあ点滴一本増やそうか。
あと、食事形態について栄養士に相談して。」
黒木は相変わらず淡々としていて、
白衣の袖を少し捲りながら指示を出す。
「はい、わかりました。」
まさかの…同じ病棟で働いている。
◇
そして、仕事終わりに
カフェでコーヒーを飲んでいたら――
「あれ、月宮さん?」
顔を上げると、見覚えのある人が立っていた。
「えっと……もしかして速川先輩?」
そう言うと、先輩はふわっと柔らかく微笑んだ。
「うん、久しぶりだね。」
「そうですね。」
速川湊先輩。
同じ高校で、私を“殺したかもしれない人物”として疑っていた相手。
……あの時は、本当にごめんなさい。
「それより、どうしたんですか?」
「ここ、会社の近くでさ。俺もよく利用するんだ。
まさか会えると思わなかったよ。座ってもいい?」
そう言われて、私は軽くうなずいた。
「はい。」
先輩は椅子を引いて、向かいの席に腰を下ろす。
「実はね……ずっと伝えたいことがあって。」
頬をかきながら、少し照れたように笑う。
「その前に……今、彼氏とかいる?」
「いないです。」
そう答えた瞬間、
先輩は目に見えてほっとした表情を浮かべ、
意を決したように私を見つめた。
「実は俺……月宮さんのこと、高校のときから好きだったんだよね。」
わあ。
まじか。
私は思わず目を丸くした。