万華鏡は月を巻き戻す

羽瑠24歳。
看護師として働き始め数年たった。

朝のナースステーションは慌ただしく、
電子カルテの光が青白く反射している。
私はカルテを抱え、黒木のもとへ歩く。

「黒木先生、オペ後の山田さんですが。食事があまり取れていないようで。」

「じゃあ点滴一本増やそうか。
あと、食事形態について栄養士に相談して。」

黒木は相変わらず淡々としていて、
白衣の袖を少し捲りながら指示を出す。

「はい、わかりました。」

まさかの…同じ病棟で働いている。



そして、仕事終わりに
カフェでコーヒーを飲んでいたら――

「あれ、月宮さん?」

顔を上げると、見覚えのある人が立っていた。

「えっと……もしかして速川先輩?」

そう言うと、先輩はふわっと柔らかく微笑んだ。

「うん、久しぶりだね。」

「そうですね。」

速川湊先輩。
同じ高校で、私を“殺したかもしれない人物”として疑っていた相手。
……あの時は、本当にごめんなさい。

「それより、どうしたんですか?」

「ここ、会社の近くでさ。俺もよく利用するんだ。
 まさか会えると思わなかったよ。座ってもいい?」

そう言われて、私は軽くうなずいた。

「はい。」

先輩は椅子を引いて、向かいの席に腰を下ろす。

「実はね……ずっと伝えたいことがあって。」

頬をかきながら、少し照れたように笑う。

「その前に……今、彼氏とかいる?」

「いないです。」

そう答えた瞬間、
先輩は目に見えてほっとした表情を浮かべ、
意を決したように私を見つめた。

「実は俺……月宮さんのこと、高校のときから好きだったんだよね。」

わあ。
まじか。

私は思わず目を丸くした。
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