万華鏡は月を巻き戻す
「えっと…私と先輩って、とくに話したことないですよね?」
学年も違うし、
サッカー部のキャプテンとしてみんなから信頼されていた人気者。
私とは、ほとんど接点なんてなかったはずだ。
「そうなんだけどね…」
先輩は少し照れたように笑って、続けた。
「俺が高二の時さ、猫の人形を無くしちゃって。その頃、サッカーもうまくいかなくて……やめようと思ってた時期だったんだ。」
懐かしむように目を細める。
「その猫の人形、くたびれててさ。
みんな足で蹴ったり、見えてても無視したりして……」
そこまで言って、ふっと息をつく。
「でも、そんな中で月宮さんだけは違った。」
胸の奥が少しざわつく。
「拾って、洗って、踏まれない位置に置いてくれてた。
その時、友達と話してる声が聞こえたんだ。」
先輩は、あの時の言葉を思い出すようにゆっくり続けた。
「みんなが笑ってる中で、月宮さんだけが言ったんだ」
『こんなところにいたら可哀想だよ。
誰かにとっては大切なものかもしれないから。』
その言葉を口にした瞬間、
先輩の表情がほんの少しだけ柔らかくなる。
「……あれ、すごく救われたんだ。
誰にも言えなかったけど、あの猫の人形、俺にとっては大事なものだったから。」
胸の奥がじんわり温かくなる。
「それから……月宮さんのこと、ずっと好きだった。
でも高校では言えなくてさ。
ずっと後悔してたんだよね」
静かな告白だった。
でも、その静けさがかえって重く響く。