万華鏡は月を巻き戻す
それから速川先輩とは、月に一度ご飯に行くような関係になり、
半年が経った頃――また告白された。

「うーん……」

「どうしたの?」

黒木が論文から視線を上げる。

「告白されたんです。」

「へぇ。おめでとう。例の彼?」

興味なさそうに言うその声が、逆に落ち着く。

「はい。そういえば黒木先生も会いましたよね。
しれっと私の主治医だって言ってた。」

「間違ったことは言ってないよ。君のオペをしたときの主治医だし、今も健康状態は僕が見てる。」

「まあ……そうですけど。
それより、まだ返事してなくて。」

「どうして?確か彼、スカイアドホールディングスに勤めてるんでしょ?穏やかで、社員からの信頼も厚いようだね。」

「いや……なんで知ってるんですか。」

国内最大手の広告代理店でテレビCM、イベント、スポーツ案件に強いとされる一流企業だ。


「多少は調べるよ。
君に何かあったら困るからね。」

――一番危険なのはあなたなんだけど。

心の中でだけ呟く。

「それで?何を悩んでるの?」

黒木がまっすぐこちらを見る。

「だって……私、まだ朔のこと忘れられない。
それなのに他の人と付き合うのって、ずるくないですか。
速川先輩、優しいし……悪いじゃん。」

「ふーん。」

黒木はコーヒーを一口飲んで、淡々と言う。

「ずるくないよ。男なんていくらでもいる。そろそろ前を向いて、他の人を見てみれば?
もうあれから7年経つんだ。
案外、ころっと落ちるかもしれない。」

「……そういうもんですかね。」

「まあ、決めるのは君だけど。」

黒木はふっと笑った。
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