万華鏡は月を巻き戻す
「考えてくれたかな?」

速川先輩がまっすぐこちらを見る。

「はい。でも、私……ずっと忘れられない人がいるんです。
だから、やっぱり。」

「それでもいいよ」

「え?」

「無理に忘れようとしなくていい。
それ以上に、俺が羽瑠ちゃんを幸せにできるよう努力するから。
だから……俺と付き合ってください」

真っ直ぐに向けられた好意。
逃げ場のないほど誠実な眼差し。

朔もきっと、前に進んでいるはず。
なら私も――前に進まなきゃ。

「……はい。よろしくお願いします」

それから付き合い始めた。

動物園にも行った。
ミーアキャットを指さす。

「湊さん、見てください。可愛い」

「ほんとだ。可愛いね」

湊さんは優しかった。
穏やかで、頼りになって、
いつも私を大事にしてくれた。

朔と過ごした4ヶ月よりも、
湊さんと過ごす時間のほうが長くなっていった。

キスもした。
抱き合って、身体を重ねた。

それでも――
胸の奥のぽっかり空いた穴は、
どうしても埋まらなかった。

笑っていても、
手をつないでいても、
湊さんの腕の中にいても。

私はいつも、
朔を探してしまっていた。
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