万華鏡は月を巻き戻す
変な人…本当に死神だったりして。

そう思って目を閉じた。

死神に会ってから3日後、目を覚ますと
頬が濡れていた。
泣いた記憶なんてないのに、涙だけが残っていた。

そして――

俺の腎臓は機能が回復していた。

医者たちは口々に「奇跡だ」と言った。
まるで新しい腎臓に生まれ変わったみたいだ、と。

でも、俺は何も思い出さない。

胸の奥にぽっかり穴が空いたまま、
何か大切なものを落としたまま、
それでも時間だけが進んでいった。

それから、家族と海外で過ごした。

勉強もスポーツも人並み以上にできて、
飛び級で大学にも入学した。

けれど――退屈だった。

何をしても心が満たされない。
何かを探しているのに、それが何なのか分からない。

そんな中で、17歳になった俺は
亡くなった祖父母の家を片付けるために日本に帰ってきた。

◇

8月13日。
夏祭りの夜。
遠くで花火が上がり、空が淡く光る。

古い押し入れの奥から、
小さな筒が転がり落ちた。

「これ…万華鏡?」

手に取って、思わず覗いた。

その瞬間――

視界が白く弾け、
まるで走馬灯のように映像が流れ込んできた。

羽瑠を救うために17歳の羽瑠に会いに行ったこと。
一緒に行った水族館。
遊園地。
寝落ち電話。
羽瑠の笑顔。
浴衣姿。
泣き顔。
名前を呼ぶ声。

そして、ようやく思い出した。

「羽瑠…。」

生きてるのか。
今どこにいる。
俺は――何をしていたんだ。

待って、腎臓。

Tシャツを捲ると、
いままでなかったはずの手術痕が
うっすらと浮かび上がっていた。

胸が熱くなる。
息が震える。

「…羽瑠。」

ようやく、
俺は“生きている理由”を思い出した。
< 148 / 156 >

この作品をシェア

pagetop