ねじれの位置の恋人-世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人‐
見知らぬ折り上げ天井は、間接照明と化粧梁がおしゃれだった。
柔らかい布団の中で目が覚めた七海は、数秒間ぼんやりと開放感あふれる天井を見たあと、ハッと我に返った。
見間違いでなければ壁掛け時計の針はもうすぐ11時だろうか?
「遅刻!」
飛び起きようとした七海は、再び襲ってきためまいのせいで枕に逆戻りした。
どうしよう。
完全に遅刻、いや無断欠勤だ。
9時からの会議の資料も印刷していないし、明日までの資料も係長に返事をもらっていない。
マズい。昼からでも出社しないと……。
「気分はどうだ?」
「ひゃいっ」
突然聞こえた男性の声に驚いた七海から変な声が出る。
男性は読んでいた本をテーブルに置き、ソファーから立ち上がると、七海が占領しているベッドの横に立った。
「顔色がまだ悪いな」
男性の手は、また医者のように七海の首筋に伸び、耳の後ろにも触れる。
少しくすぐったかったが、ひんやりした手が気持ちいいと思ってしまった。
「アレルギーはあるか?」
「いいえ。特には」
駅で助けてもらった時はどんな人か確認する余裕なんてなかったけれど、顔が整いすぎでは?
目鼻立ちがはっきりした華やかな顔立ちは、まるで海外の映画俳優のようだ。
「食事制限中か?」
「え?」
どういう意味?
首を傾げた七海を見た男性は、手を口元に当てながら「違うのか」と呟いた。
「血液検査をしてみないと断言はできないが、おそらく栄養不良だ」
男性は、実は日本人の1/3は栄養不良なのだと簡単に教えてくれた。
食生活の偏りによって、特定の栄養素が不足する新型の栄養失調が急増していると。
食事を麺類やパンだけで済ませていないかと尋ねられた七海は、心当たりがありすぎて気まずかった。
「食事を作ってくる」
「そんなご迷惑は」
「このまま帰らせても、碌なものを食べないだろ?」
男性は呆れながら肩をすくめる。
どうしてバレたのだろう?
正確には食べないのではなく、お金がなくて食べることができないのだけれど。
「もう少し横になって休んでいろ」
「あ、私の鞄からスマートフォンを取ってもらえないでしょうか? 会社に休むと連絡をしていなくて」
七海が壁時計をチラッと確認しながらお願いすると、男性はソファーの前に置かれた七海の鞄からスマートフォンを取ってくれた。
「えっ?」
ロック画面に表示された通知に驚いた七海は、慌てて係長からのメッセージを確認する。
『派遣のくせに無断欠勤とはいい度胸だ。おまえのような奴はもう来なくていい』
いきなりクビ……?
無断欠勤はダメだけれど、でも理由くらい聞いてくれたっていいのに。
「どうした?」
何世代前かもわからないほど古いスマートフォンをひょいっと取り上げられた七海は思わず「あっ」と声を出す。
「ひどいな」
「そうですよね。無断欠勤なんて……」
「いや。派遣を馬鹿にしているような言い回しに腹が立っただけだ」
スマートフォンを返してもらった七海が派遣会社の担当に電話をかけると、何コールかしたあと、ようやく担当は電話に出てくれた。
「おつかれさまです。斎藤です。今日……」
『あのさぁ、無断欠勤ってどういうこと? むっちゃくちゃ怒られたんだけど』
「駅の改札で体調が」
『あ~、そういう嘘はいいから』
……嘘?
この人、嘘だと思っているの?
「本当に体調が悪くて、歩けなく……」
『へぇ~、そうなんだ~』
絶対信じてないでしょ。
本当なのに、ひどい!
「代われ」
説明しようとした七海の手からスマートフォンを奪った男性は、まるで自分のスマートフォンかのように通話を始めてしまった。
柔らかい布団の中で目が覚めた七海は、数秒間ぼんやりと開放感あふれる天井を見たあと、ハッと我に返った。
見間違いでなければ壁掛け時計の針はもうすぐ11時だろうか?
「遅刻!」
飛び起きようとした七海は、再び襲ってきためまいのせいで枕に逆戻りした。
どうしよう。
完全に遅刻、いや無断欠勤だ。
9時からの会議の資料も印刷していないし、明日までの資料も係長に返事をもらっていない。
マズい。昼からでも出社しないと……。
「気分はどうだ?」
「ひゃいっ」
突然聞こえた男性の声に驚いた七海から変な声が出る。
男性は読んでいた本をテーブルに置き、ソファーから立ち上がると、七海が占領しているベッドの横に立った。
「顔色がまだ悪いな」
男性の手は、また医者のように七海の首筋に伸び、耳の後ろにも触れる。
少しくすぐったかったが、ひんやりした手が気持ちいいと思ってしまった。
「アレルギーはあるか?」
「いいえ。特には」
駅で助けてもらった時はどんな人か確認する余裕なんてなかったけれど、顔が整いすぎでは?
目鼻立ちがはっきりした華やかな顔立ちは、まるで海外の映画俳優のようだ。
「食事制限中か?」
「え?」
どういう意味?
首を傾げた七海を見た男性は、手を口元に当てながら「違うのか」と呟いた。
「血液検査をしてみないと断言はできないが、おそらく栄養不良だ」
男性は、実は日本人の1/3は栄養不良なのだと簡単に教えてくれた。
食生活の偏りによって、特定の栄養素が不足する新型の栄養失調が急増していると。
食事を麺類やパンだけで済ませていないかと尋ねられた七海は、心当たりがありすぎて気まずかった。
「食事を作ってくる」
「そんなご迷惑は」
「このまま帰らせても、碌なものを食べないだろ?」
男性は呆れながら肩をすくめる。
どうしてバレたのだろう?
正確には食べないのではなく、お金がなくて食べることができないのだけれど。
「もう少し横になって休んでいろ」
「あ、私の鞄からスマートフォンを取ってもらえないでしょうか? 会社に休むと連絡をしていなくて」
七海が壁時計をチラッと確認しながらお願いすると、男性はソファーの前に置かれた七海の鞄からスマートフォンを取ってくれた。
「えっ?」
ロック画面に表示された通知に驚いた七海は、慌てて係長からのメッセージを確認する。
『派遣のくせに無断欠勤とはいい度胸だ。おまえのような奴はもう来なくていい』
いきなりクビ……?
無断欠勤はダメだけれど、でも理由くらい聞いてくれたっていいのに。
「どうした?」
何世代前かもわからないほど古いスマートフォンをひょいっと取り上げられた七海は思わず「あっ」と声を出す。
「ひどいな」
「そうですよね。無断欠勤なんて……」
「いや。派遣を馬鹿にしているような言い回しに腹が立っただけだ」
スマートフォンを返してもらった七海が派遣会社の担当に電話をかけると、何コールかしたあと、ようやく担当は電話に出てくれた。
「おつかれさまです。斎藤です。今日……」
『あのさぁ、無断欠勤ってどういうこと? むっちゃくちゃ怒られたんだけど』
「駅の改札で体調が」
『あ~、そういう嘘はいいから』
……嘘?
この人、嘘だと思っているの?
「本当に体調が悪くて、歩けなく……」
『へぇ~、そうなんだ~』
絶対信じてないでしょ。
本当なのに、ひどい!
「代われ」
説明しようとした七海の手からスマートフォンを奪った男性は、まるで自分のスマートフォンかのように通話を始めてしまった。