普通じゃ満たされない夜

第1話 なんか、足りない

なんでだろう。

ベッドの上でスマホを見つめながら、私は小さく息を吐いた。

「おやすみ。明日1限でしょ?ちゃんと寝てね」

タクヤからのLINE。
そのすぐ後に、くまのスタンプ。

優しいな、と思う。
本当に、ちゃんと優しい。

授業のことも気にしてくれるし、私が疲れてたら無理しなくていいって言ってくれる。帰り道も危ないからって駅まで送ってくれるし、友達に話したらたぶんみんな言う。

“え、めっちゃいい彼氏じゃん”

うん。分かってる。

分かってるのに。

スマホの画面を暗くして天井を見ると、胸の奥に小さな空白があるのに気づく。

安心してる。
大事にもされてる。
でも、何かが足りない。

その“何か”が分からないのが、いちばん苦しかった。

今日だって楽しかったはずだ。
学食でお昼食べて、カフェ寄って、来月どこ行く?って話して。
恋愛として、何も間違ってない。

なのに、帰ってきて一人になると、
気持ちが静かすぎる。

ドキドキとか、会いたいとか、
そういうのが前よりずっと薄くなってる気がした。

「……最低」

自分でそう呟く。

タクヤは悪くない。
むしろ、私にはもったいないくらいちゃんとしてる。

でも、ちゃんとしてるから満たされるとは限らないんだって、
そんなこと思ってしまう自分が嫌だった。

なんとなく開いていたSNSをスクロールしていると、
見慣れないページが目に入った。

“普通じゃ満足できない人へ”

一瞬、指が止まる。

なにこれ。

怪しい。
閉じた方がいい。

頭ではそう思うのに、なぜか目が離せなかった。

シンプルな画面。
でも、その言葉だけが妙に熱を持って見えた。

“本当に変わりたい人だけ”

変わりたいなんて思ってない。

そう言い聞かせながらも、私は画面を閉じなかった。

ただ少し、
今のままじゃない何かを知りたいと思ってしまった。

その夜、私は初めて、
自分の中にある“言いたくない欲しさ”に気づいた。
< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop