敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません

第1章 敗戦の夜

夜の城は、炎に包まれていた。

赤く揺れる火が、夜空を焼き尽くすように広がっていく。

崩れ落ちる瓦礫の音と、兵の叫び声が絶え間なく響いていた。

「姫様、お下がりください!」

侍女の声が耳元で震える。

けれど私は、首を横に振った。

「まだです」

手にした剣を握り直す。

重い。けれど、その重みが、私を立たせていた。

私は、孟国の姫。

この国が落ちるその瞬間まで、立っていなければならない。

目の前では、最後の防衛線が崩れかけていた。

信の軍勢は圧倒的で、もはや押し返す力は残っていない。

それでも――

「前へ!」

自分でも驚くほど、声はよく通った。

兵たちが振り返る。その目に、わずかな光が宿る。

あと一歩。あと一歩踏み出せば、まだ――

だがその瞬間。轟音とともに、城門が崩れ落ちた。

「……っ」

全てが、終わったと分かる。
< 1 / 30 >

この作品をシェア

pagetop