敗戦の姫ですが敵国の皇帝に狂おしく溺愛されて逃げられません
兵の顔から色が消え、次の瞬間には、膝をつく者もいた。

私は、ただ静かに剣を下ろした。

(負けたのね)

不思議と涙は出なかった。むしろ、胸の奥が凪いでいく。

ここまで戦った。もう、悔いはない。

「姫様……!」

駆け寄ってきた侍女が、私の袖を掴む。

その手は、震えていた。私はその手をそっと包む。

「大丈夫よ」

そう言いながら、自分でも驚くほど落ち着いていた。

敗戦国の姫に残される道は、ひとつしかない。

――その夜。父のもとに、信からの使者が訪れた。

広間に集められた私たちは、重い沈黙の中でその言葉を聞いた。

「和睦の条件として――人質を差し出せ」

空気が、凍りつく。

父はしばらく言葉を失い、やがて低く呟いた。

「……誰を」

使者は淡々と答える。

「王族であれば、誰でもよい」

その一言で、すべてが決まったような気がした。
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