家も仕事も失いましたが、一夜の恋で授かったお腹の子ごと若手社長に溺愛されています
(いや、きっと酔ってたときに自分から名乗った、とかだよね)

 そうとしか思えないので、そう思っておいた。

 それにこれは本題ではないのだ。

「……わかった。ではこうしよう」

 明莉が反応に迷っているのを悟ったのだろう。

 彼は小さく息をついて、少し口調を変えた。

「とりあえず一年間でいい。だから同居契約だと思って、そこから始めてくれ。もちろん俺から誘ったんだから、家賃や生活費は要らない。これから行く先がないんだろう?」

 情熱的な口調で話されるこれも、冗談とは思えない様子だ。

 明莉は迷った。

 真剣に言われているのはわかるし、ワンナイトの相手だったとしても、彼と過ごすのが居心地良かったから、一夜を共にするのを選んでしまったわけだし。

 実際、プロポーズなんてされた驚きは大いにあるけれど、嫌悪感はまるでない。

 それに……。

(結婚……。結婚したら、その間だけでも、独りきりにならずに済む……)

 明莉の頭に、二日前のことが浮かんだ。

 酷い捨て方をしてきた圭二。

 彼のことは到底許せないが、彼がいなくなって明莉が一番辛いと思ったのは、『独りきり』だった。

 大学を出て数年もしないうちに圭二と同棲を始めたし、その前も実家で両親と暮らしていたのだ。

 独り暮らしは慣れていない。

 元々、あたたかな場所だと思っていた自宅だったからこそ、独りぼっちになってからは、ここに自分しかいないという事実が辛かった。

 だから、その心の傷が癒えるまでだと思えば……。
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