恋愛はめんどくさい!
駅前の広場に近づくと、恵は突然立ち止まった。
「あ、やば。私、ちょっと用事思い出した!」
なんだ、そのとってつけたような台詞は!
「じゃあ、二人とも、まったねー!」
そう言って、恵は手を振りながらそそくさと去っていった。
私と先輩は、駅前の広い歩道にポツンと取り残されてしまった。
「……なんか、すごい元気な子だね」
「……はい、恵はいつもあんな感じなんです」
私の呆れたような言い方に、先輩は苦笑していた。
しばらくの沈黙の後、先輩はやや真剣な声で言った。
「変なタイミングで声かけちゃってごめん。学校では秘密にしたいって言ってたのに」
ああ、確かに。言われてみればそうかもしれない。
「いえ、気にしなくていいですよ。同じ部だし、全く会話がないのもおかしいでしょう」
「うん、でも……」
「恵は特別ですよ。そもそも先輩と会う前から、なんとなくわかってたみたいだし」
「そっか……」
先輩は申し訳なさそうな顔をしていたが、なんとなく嬉しそうにも見えた。
「じゃあ……行きましょうか、先輩」
私は改札へ向かって歩き始めた。
「大沼さん、ちょっといいかな?」
先輩の声に、私は足を止めた。
「はい」
「行きたいところがあるんだけど、これから一緒にどうかな?」
予想していなかった。いや、予想できていなかった。
あのタイミングで先輩から声をかけてきたのだ。こうなる可能性が高いことに、何で気づかなかったんだろう。
「はい、大丈夫ですよ」
私は、静かにゆっくりと返事をした。
予想していなかったことを、悟られないように、と。