皇命婚と告げた運命の伴侶に恋情を贈る
『結界は張ってあるが、万が一の際は屋敷を捨てて皆と皇都へ逃げろ、いいな』


父の魔力や命が尽きれば結界は消滅する。

重く切羽詰まった口調に母とともにうなずく。


『父様、帰ってきてね』


十七歳だった私は母ほど事の重大さを理解しておらず、ただ父の無事だけを祈っていた。


『ああ、皇都から魔術騎士団を含む多くの騎士団員が応援に来ているし、大丈夫だ。トルンもいるらしいぞ、後で一緒に会いに行こうな』


『そうなの? 約束ね』


私の頭を撫でる父の手は大きく温かった。

まさかこれが最後の会話になるとは思いもしなかった。


討伐は過酷で凄惨なものだったという。

風の魔術が得意だった父は騎士団と協力し、若き騎士たちを庇い、最期まで立派に戦ったそうだとトルン医師が教えてくれた。

父は瀕死の状態で砦の救護室に担ぎ込まれ、母と私への愛を口にした後、息を引き取ったという。


『……こんなときに申し訳ないが、今後について話をさせてほしい』


深い悲しみを目に滲ませたトルン医師が口を開く。


『今回はなんとか乗り切ったが、魔獣の襲撃が今後もないとは言い切れない。騎士団も大きな被害を受けた今、立て直すのに時間が必要だ。ふたりの出自の件もあるし、ワクスの遺言どおり皇都で暮らすべきだ。もちろん援助は惜しまない』


『わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません』


『リラ、遠慮も他人行儀な態度も不要だ。微力ながら今後はワクスの代わりに守らせてくれ』


ふたりの深刻な会話を私は黙って聞いていた。
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