ラビット・ボンド
OPENING
うわ最悪。目覚め一秒でそう思う。
酒に飲まれた翌朝ほど最悪なものはない。化粧も落としてないし、内臓にまだアルコールがいる感じする。最悪だ。
シーツの中に手を潜らせて、ごそごそとスマホを探す。たしかこの辺に置いたはず。なんとか探り当てて画面を見る。時刻は7時だった。
いやめっちゃ朝。今日も一日が始まっている。ダラダラする気もないので、とりあえず上半身を起こした。
やけに寝心地良いダブルベッドには、私の他にもう一人、爆睡中の男がいる。男は、私に背を向けて丸まっていた。
酔った勢いで行きずりの男と――というわけではない。そういう経験も少なくないけど、昨夜はノーチャンだ。
せっかくの海外リゾートだし、開放感あるし、イケメンだし。別にワンチャンあってもやぶさかではない。
――コイツが橘虎雄じゃなければ。
橘虎雄――ドラマや映画で大活躍の、今をときめくイケメン俳優。
甘いルックスと軟派な態度。好青年飽和時代に現れたチャラ男の新星として何故か茶の間にウケている。期待を裏切らない派手なプライベートでネットを賑わせているのを、私も何度か見たことがある。
そんな男が隣でぐーすか寝ている。
おいおい大丈夫か。危機感はどこにいった。ここにいるのは昨日会ったばかりの一般人だ。写真撮られてたらどうすんの。スマホのデータ確認させるべき?
はあ。タメ息をひとつ。のそのそと立ち上がってトイレへ向かう。
昨夜は泥酔してたから平気だったけど、素面になると心が追い付かない。もう面倒くさくなってきた。何も言わずに帰りたい。
用を済ませて洗面台の前に立つ。鏡には化粧ボロボロ髪ボサボサのアラサー女が映っていた。
まったく、お前は何回酒で失敗したら気が済むんだ。
「ねえ、起きて」
無言で帰るのもさすがにどうなのってわけで、部屋に戻って声をかけてみる。起きる気配はなし。
身体を揺さぶろうと手を伸ばしかけて、一時停止。寝てる芸能人に無断で触るのはよろしくないとマイルールが言っている。
枕を掴んでどしどしぶつけることにした。
「ね、起きてってば」
「んー……うん? ちょっと待ってなんで俺ぶたれてんの」
橘虎雄が目を閉じたまま笑っている。どうやら起きてくれたらしい。寝起きからゴキゲンで何よりだ。
「私ここにいて怒られない? 大丈夫? 仕事で来てるんでしょ?」
詳しいことは知らないが、昨日そんなことを言ってた気がする。ノーチャンだったとはいえ女を連れ込んだりしていかがなものか。まあ、乗り込んだ私が言えた義理はないけども。
聞きながら、帰り支度をする。
改めて室内を見渡せば、リゾートホテルのおしゃれなテーブルがひどい状態だった。酒と菓子のゴミが散乱している。散らかした自覚があるので、せめてゴミをひとまとめにでもしておくか。
「大丈夫っしょ。撮影もう終わったし」
間延びした声。片付ける手を止めて振り返ると、橘虎雄が身体を起こしてベッドに腰かけていた。朝からウソみたいに顔がいい。
大丈夫ならまあいいや。そもそも私の知ったこっちゃないし。とか開き直れるほど私の心臓に毛は生えてない。
酒に飲まれて部屋に来て、更に飲まれて最終的に寝落ち。恐ろしいことに全て私の仕業で、どう考えても昨夜の私はやらかしすぎた。
間違いなく今年の反省大賞だ。まだ上半期だけど。
「ほんと……なんていうか……」
呟く私に、ん? と橘虎雄が視線を向ける。
「ごめんなさい」
「何のごめん? あれ、もしかして記憶ない?」
記憶、ないほうがマシだったとすら思う。
残念なことに覚えてる。何がどうなってこうなったのか、ほとんど全部覚えてる。
覚えてるから反省してるし、覚えてても思ってしまう。
なんで、どうして、こんなことに……。
私はただ、リゾートを満喫してただけなのに――。
酒に飲まれた翌朝ほど最悪なものはない。化粧も落としてないし、内臓にまだアルコールがいる感じする。最悪だ。
シーツの中に手を潜らせて、ごそごそとスマホを探す。たしかこの辺に置いたはず。なんとか探り当てて画面を見る。時刻は7時だった。
いやめっちゃ朝。今日も一日が始まっている。ダラダラする気もないので、とりあえず上半身を起こした。
やけに寝心地良いダブルベッドには、私の他にもう一人、爆睡中の男がいる。男は、私に背を向けて丸まっていた。
酔った勢いで行きずりの男と――というわけではない。そういう経験も少なくないけど、昨夜はノーチャンだ。
せっかくの海外リゾートだし、開放感あるし、イケメンだし。別にワンチャンあってもやぶさかではない。
――コイツが橘虎雄じゃなければ。
橘虎雄――ドラマや映画で大活躍の、今をときめくイケメン俳優。
甘いルックスと軟派な態度。好青年飽和時代に現れたチャラ男の新星として何故か茶の間にウケている。期待を裏切らない派手なプライベートでネットを賑わせているのを、私も何度か見たことがある。
そんな男が隣でぐーすか寝ている。
おいおい大丈夫か。危機感はどこにいった。ここにいるのは昨日会ったばかりの一般人だ。写真撮られてたらどうすんの。スマホのデータ確認させるべき?
はあ。タメ息をひとつ。のそのそと立ち上がってトイレへ向かう。
昨夜は泥酔してたから平気だったけど、素面になると心が追い付かない。もう面倒くさくなってきた。何も言わずに帰りたい。
用を済ませて洗面台の前に立つ。鏡には化粧ボロボロ髪ボサボサのアラサー女が映っていた。
まったく、お前は何回酒で失敗したら気が済むんだ。
「ねえ、起きて」
無言で帰るのもさすがにどうなのってわけで、部屋に戻って声をかけてみる。起きる気配はなし。
身体を揺さぶろうと手を伸ばしかけて、一時停止。寝てる芸能人に無断で触るのはよろしくないとマイルールが言っている。
枕を掴んでどしどしぶつけることにした。
「ね、起きてってば」
「んー……うん? ちょっと待ってなんで俺ぶたれてんの」
橘虎雄が目を閉じたまま笑っている。どうやら起きてくれたらしい。寝起きからゴキゲンで何よりだ。
「私ここにいて怒られない? 大丈夫? 仕事で来てるんでしょ?」
詳しいことは知らないが、昨日そんなことを言ってた気がする。ノーチャンだったとはいえ女を連れ込んだりしていかがなものか。まあ、乗り込んだ私が言えた義理はないけども。
聞きながら、帰り支度をする。
改めて室内を見渡せば、リゾートホテルのおしゃれなテーブルがひどい状態だった。酒と菓子のゴミが散乱している。散らかした自覚があるので、せめてゴミをひとまとめにでもしておくか。
「大丈夫っしょ。撮影もう終わったし」
間延びした声。片付ける手を止めて振り返ると、橘虎雄が身体を起こしてベッドに腰かけていた。朝からウソみたいに顔がいい。
大丈夫ならまあいいや。そもそも私の知ったこっちゃないし。とか開き直れるほど私の心臓に毛は生えてない。
酒に飲まれて部屋に来て、更に飲まれて最終的に寝落ち。恐ろしいことに全て私の仕業で、どう考えても昨夜の私はやらかしすぎた。
間違いなく今年の反省大賞だ。まだ上半期だけど。
「ほんと……なんていうか……」
呟く私に、ん? と橘虎雄が視線を向ける。
「ごめんなさい」
「何のごめん? あれ、もしかして記憶ない?」
記憶、ないほうがマシだったとすら思う。
残念なことに覚えてる。何がどうなってこうなったのか、ほとんど全部覚えてる。
覚えてるから反省してるし、覚えてても思ってしまう。
なんで、どうして、こんなことに……。
私はただ、リゾートを満喫してただけなのに――。
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