空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜
そのとき、母がリビングに顔を出してきた。咄嗟に顔を上げた仄香と目が合ったが、涙を流す姿を見ても母はただ眉をひそめるだけで、むしろ鬱陶しそうに視線を逸らす。
「里穂はどうしたの?」
問いかけられても、仄香は言葉を出せなかった。泣いている自分に目もくれず、姉のことばかりを気にしている母の態度に、心がさらに削られる。
「ちょっと!聞いてるの?」
母の声に、心がひきつった。拓翔と会っている里穂のことを思うと、声すら出せない。
その態度に母の苛立ちはますます強まり、肩を大きく揺らしながら息を荒く吐き、指先でカウンターを軽く叩きながら言葉を吐き捨てる。
「まったく……あなたの、そういうところが嫌いなのよ」
言い切ると、母は乱暴にリビングを出ていく。扉が閉まる音が、仄香への拒絶を一層際立たせた。
仄香は小さく肩を震わせながら、握りしめた栞を胸に押し当てる。
拓翔への思いも、過去の記憶も、母から突きつけられた現実の痛みも、どうしたら手放せるのか分からない。
何もできないまま、虚ろな空気の中にひとり沈んでいく。
視界の端に、薄く差し込む朝の光が揺れる。
手元の栞を淡く照らすのを見つめながら、仄香は最後の希望を静かに手放していった。