空に預けた恋を誓う〜エリートパイロットは約束の幼馴染を一途に愛しぬく〜

 母の表情が強張り、里穂は言葉にならない悲鳴を上げて逆上する。だが拓翔はもはや、二人へ視線を向けることすらなかった。

 彼は腕の中の仄香へと向き直る。

「行こう、仄香。これ以上、こんな場所に君を置いておきたくない」

 その声は、包み込むようにやさしかった。仄香は拓翔の胸に顔を埋め、震える体を彼に預ける。涙を流しながら何度もうなずき、小さな手でそっと彼の背中を抱き返した。

 震えていた体が、少しずつ力を抜いていく。

「待ちなさい仄香!戻りなさい!出ていくなんて勝手なこと、私が許すとでも──」

「聞かなくていい」

 拓翔がその耳を塞ぐように、大きな手で包み込んだ。そのまま迷いのない足取りで、殺伐としたリビングを後にした。
 
 玄関を開け、外の光が差し込む廊下へ踏み出す。頬を撫でる風は冷たかったが、背中を支える拓翔の手の温度が、驚くほどあたたかかった。

 一歩、また一歩と家から遠ざかるたび、長年の束縛や恐怖が剥がれ落ちていく。

 拓翔の腕の中で、仄香は生まれて初めて「心からの安堵」というものを知った。肺の奥まで新鮮な空気が入ってきて、あれほど痛かった胸の苦しみが、嘘みたいに遠のいていく。
 
 隣に彼がいる。たったそれだけのことが、今の仄香には何よりも心強かった。

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