10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
第1話:最悪の出会い
机の上に山積みの書類を前に、またため息をついた。
「……今日も終わらない」
パソコンの画面には未読メールがずらりと並び、どれから手をつけるか頭の中で整理する。
30歳を前にして、仕事は順調。だけど、仕事量も責任も増えた分、残業は当たり前になっていた。
頭痛も、肩のこりも、今は気にする暇がない。とにかく目の前の数字と資料に向き合うしかない。
周囲はすでに帰宅していて、オフィスは静まり返っている。コーヒーの香りと、キーボードを叩く音だけが響く。
窓の外に広がる夜景は、ただ光の塊になって映っていた。
でもそんなことに目を向ける余裕もなく、ひたすら手を動かす。
今日も、ひたすら仕事に没頭するだけの夜だ。
白石梨沙、28歳。気づけばもうすぐ30歳。
いわゆるアラサーで、どこにでもいるような、ごく普通の女。
左手の薬指には当然のように何もついていなくて、周りから見ればきっと“売れ残り予備軍”なんて思われているんだろうな、なんて自虐的に考えてしまうくらいには、恋愛とも縁がない。