10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「まあ、話聞いてる限りだと……梨沙というよりは社長のほうがね~」
「社長のほうがなに!?」
思わず勢いよくグラスをテーブルに置いてしまい、梅酒が少しだけこぼれる。慌てておしぼりで拭きながら、内心ではぐちゃぐちゃになっていた。
あーもうっ。社長のほうがなに!?じゃないよ。なんで私がこんなに社長のこと気にしてるみたいになってるの。
紗耶香はそんな私を見て、フッと面白そうに笑った。
「梨沙のこと、だいぶ溺愛してるんだね」
紗耶香は楽しそうに、確信めいた顔でそう言った。
「……で、溺愛?」
「そうだよ。それに梨沙は嬉しくて恥ずかしくてどうしようもないわけだ」
紗耶香はそう言いながら、美織ちゃんのようにに両手でハートを作ってみせる。
「なにそれ、意味わかんないし……」
そう言い返す声が、ほんの少し上ずってしまっているのが、自分でも分かってしまう。それに気づきたくなんてなかったのに。
「梨沙。今度こそ、後悔しないでね」
紗耶香の、いつもの軽い調子じゃなくて、少しだけ真面目な声。
違う、そういうのじゃないって言いたいのに、口がうまく動かない。
代わりに、グラスの中の梅酒だけが静かに揺れていた。